スペシャルマッチ! 外伝 (4)~(6)
スペシャル・マッチ! 外伝((4)~合気!! 作:MBO
<前回までのあらすじ>
えっもう勝負アリなの?
アナ「前代未聞! デモンストレーションで決着だ~ッ!!」
観客「おいおい本気!?」「ていうかまだ”はじめい”言ってねーじゃん!」
いきなりの幕切れにいきり立つ場内。
アナ「つーかどっちが勝ったんですか小坊主さーん!!」
小坊主「………」
当然のアナウンサーの質問に対し、小坊主は振り上げたままの腕を降ろせず、止まってしまった。
小坊主「……え~と…引き分けってことで……」
しどろもどろに告げる小坊主の顔には、ありありと不安な表情が浮かんでいる。
そしてその言葉が発せられた直後、彼が恐れていた通りの反応が起こった。
観客「ふざけんじゃねー!!」「真剣勝負に引き分けなんかあるかー!」
観客たちから罵詈雑言の嵐、
アナ「ああ~、ブーイング大合唱です!! しかし、それも無理はない! 果たして地下闘技場の
闘争の歴史にあって、”引き分け”などと言う決着が存在していいのでしょうか~!?」
いや、だからここは地下闘技場じゃないってば。
あっそうだ、地下闘技場で思い出したけど、ハナっからこの試合に乗り気じゃなかったみっちゃんは
この騒ぎに便乗してばっくれようとしてますよ?
観客「おいコラじじい! ちょっと待て!!」
と、席を立って10歩も歩かないうちに、目ざとい客に見つけられてしまったみっちゃん。
たちまち取り囲まれ、口々に喋りまくられる。
観客たち「みっちゃんからも何とか言ってやってくれよ!」「なあ徳川さん、この試合はさ、
ホラあれでしょ、再試合じゃん?」「こんなのってひでーよなァ!?」「俺は栗木が勝つのを
見に来たんだー!!」
光成「…う、うむ…」
流石に観客たちの剣幕に圧倒されるみっちゃん、こうなったらもう腹を括るしかない。
光成「え~い、わかったわい! 最後まで見ればいいんじゃろ!? 栗木対知念さんは2本先取
マッチに急遽変更じゃ~!!」
ドワァァァ
みっちゃんの一声に沸き上がる観客たち。
アナ「な、なぁ~んとこれまた前代未聞ッ! 2本勝負とあいなりましたァ~ッ!!!」
かくて、栗木の甲冑が脱がされ、知念さんの意識が回復するまで、小休止となったのであった。
そして……
観客「ク・リ・キッ!」「ク・リ・キッ!!」
アナ「さあ~思わぬ仕切り直しとなりました、栗木vs知念さん! いよいよ試合再開です!!」
観客「チ・ネ・ンッ!」「チ・ネ・ンッ!!」
割れんばかりの歓声に包まれてリング上で対峙する栗木と知念さん、先程の醜態は何処へやら、
二人の顔には自信と余裕が満ち溢れているように見えた。
アナ「この興味深い対戦が、ついに本番を迎えたのです! 永きに渡る我々の疑問が、氷解する
日が来たのです! ”栗木と知念さんはどっちが強いのか!?” …否ッ!!」
アナウンサーは、ここで一旦言葉を切った。
アナ「いったいどっちが弱いのかッ!!!」
観客「うおおおお、知念さーん!!」「殺せーッ栗木ー!!」
沸きに沸く観客たち、だが集まった連中のガラが悪いのか、もう応援も無茶苦茶である。
しかし、リング上で静かに見詰め合う二人にはそんな外野の大音量も届かないのか、先程から
身じろぎ一つしていなかった。
そして、先に動いたのは栗木だった。
スッ
右手を知念さんの方に差し出す栗木。
その動作一つで、途端に広いドームが静寂に包まれた。
栗木「握手だ、知念さん」
にこやかに笑いかける栗木。
アナ「おお~っと、珍しく礼儀正しいぞ栗木! しかしこれを鵜呑みにしていいものか~!?」
差し出された方の知念さんは、しばしいぶかしんでいる様子だったが、やがて右手を差し出して
栗木の握手に応じた。
ニヤッ
二人の手が触れ合った瞬間、栗木の口元に笑みが浮かんだ!
パシッ
栗木「つ~かまえたッ」
ドリュッ
その刹那、大きく弧を描いて栗木の体が空中を回転した!
知念さん「えっ君!?」
ドガッ
栗木は脳天からリングに落ち、のた打ち回った。
知念さん「~~~~~~ッ」
→栗木、自爆!! どうする知念さん! 次回に続く!!
スペシャル・マッチ! 外伝(5)~理想の世界(前編) 作:MBO
<前回までのあらすじ>
知念さんvs栗木、真剣勝負開始! 不意打ちを仕掛けた栗木が自爆!!
観客「な、なんだッ!?」「栗木が…!?」
アナ「いったい何が起った~ッ! 不意打ちを仕掛けた栗木の体が大回転~ッ!!!」
突然の展開に観客たちは目を見張った。ドーム中央、栗木が脳天からリングに突き刺さっていた。
本部「合気だ」
アナ「あっ解説の本部さん、いつの間に」
本部「……すっかり解説者で定着しとるな、わし」
アナ「え? 違うんですか?」
もはや格闘者であることが忘れ去られつつある本部、まあ便利なんだから仕方がない。
本部「とにかく、栗木が今使ったのは合気の奥義だ」
アナ「ああ、そう言えばこの前のトーナメントの時に言ってましたね。力が跳ね返って、
どうのこうのと」
本部「そう、栗木の攻撃は2倍にも3倍にもなって栗木自身に返って来る。まさに理想的だ」
アナ「……あの、何が理想的なのかサッパリ解らないんですけど」
本部「もし、世の中の格闘家が全員、栗木の様だったらどうなるか、考えたことはあるか?」
アナ「えっそんな、いきなり何を…?」
本部「ああなるんだよ」
スッと、本部は、リング上で依然としてダウンしている栗木を指差した。
本部「攻撃を仕掛けたものが、自分でダメージを食らってりゃ世話ねえわな。となりゃ、自ず
から暴力を振るうものもなくなる。従って、そこには争いも生まれようはずが無く…」
アナ「ハア…」
本部「理想の世界だ」
アナ「な、なるほど!」
はっきり言って滅茶苦茶な理論だが、勢い説得されてしまったアナウンサー、マイクを取り直して
吠える。
アナ「ま、まさに一瞬の早業です! 恐るべきは栗木拓次~ッ!!」
観客「うおおおお、すげえー!!」「栗木ー!!!」
観客たちも、馬鹿ばっかりだ。
しかし、ここに一人、栗木のこの所業に対し、激しい怒りを燃やす者があった。
対戦者・知念さんその人である。
知念さんは青筋立てまくり、今にも血管から血ィ吹き出しそうな勢いだった。
知念さん「栗木拓次ッッ!!」
倒れたままの栗木に向かって、怒鳴りつける。
知念さん「君は戦いを侮辱するつもりかッ!」
一方栗木の方は、何か思うとこでもあるんだろうか、仰向けになって天井を見つめたまま、
無表情でこれを聞き流しているようであった。
知念さん「このような勝利は私が望むものではない!!」
ついに痺れを切らした知念さん、栗木に向かってダッシュする!
ところで、もう勝ったつもりなのか、知念さん?
アナ「走った~!!」
観客「知念さんが突っかけたァ~ッ!!」「出るぞッ」
バババババッ
アナ「小林流・飛燕の連撃だ~!!」
(後編に続く)
スペシャル・マッチ! 外伝(5)~理想の世界(後編) 作:MBO
<前回までのあらすじ>
小林流・飛燕の連撃炸裂! か?
無数に突きを放つ知念さん、だが、しかし! ア・タ・ラ・ナ・イ!!
観客「な、なんだ~!?」「どうしたんだ!?」
知念さんは必死の形相でパンチしまくっているのに、微動だにしない栗木にカスリもしないのだ。
栗木「…!!?」
だが、最も驚いているのは栗木本人だった。何しろ、自分は何の防御もしていないのに、
知念さんの攻撃は全くア・タ・ラ・ナ・イ!なのだから。
本部「そう言やあよォ…」
ぽつりと、本部が唸った。
本部「知念さんの連撃、あれ当たってるとこ、見たことある奴いるのか?」
バッ
飛燕の連撃のさなかを、悠然と立ちあがる栗木。今度は、栗木が痺れを切らせる番だった。
知念さんは相変わらず、あらぬ方向に連打を続けている。本人は至ってマジメにやってる
くさい所が、涙を誘った。しかし、あれだけ沸いていた客席は、余りの不甲斐なさに早くも
どっちらけムードである。
”戦ってみて初めてワカった”
尚も当たらぬパンチを繰り出しつづける知念さんに、栗木は冷静に狙いを定めた。
”知念さん、アンタ…”
大きく息を吸い込み、攻撃に出る栗木!
”メチャメチャ弱かったんだ…”
栗木「ヒャイ~~~~~~ッ!!!!」
ブンッ
アナ「出たァ~~ッ!! 必殺クリキック~~~~ッ!!!」
栗木の右足は知念さんの傍をかすめ、コーナーポストに激突した!
ガンッ
しばし、ドーム内に気まずい沈黙が流れた。
いい加減に連撃の無駄を悟った知念さんは手を休め、荒々しく肩で息をしながら、足を抑えて
うずくまる栗木を呆然と見下ろしていた。
本部「小指だ」
アナ「いったい栗木に何が起った~! 達人の戦いは難しすぎる~~ッ!!」
絶叫するアナウンサーの横で、本部が冷ややかに言った。
本部「足の小指を、コーナーにぶつけたんだ」
その頃、客席のみっちゃんは。
小坊主「あの、御老公…」
光成「ZZZ……」
小坊主「熟睡してらっしゃる…」
小坊主は思った。
このまま朝まで、寝ていたい気分だろうねえ。
→両雄一歩も譲らず! 次回に続く!!
スペシャル・マッチ!外伝(6)~バカヤロウ二人!!(前編) 作:MBO
<前回までのあらすじ>
栗木vs知念さん、両者一歩も譲らず!?
栗木「ふっ…」
ようやく小指の痛みがひいたのか、栗木がヨロヨロと立ち上がった。
その目は、今なお大きくぜいぜいと喘いでいる知念さんに注がれている。
と、不意に栗木はクスッと自嘲気味に笑って言った。
栗木「伝統派空手のラッシュの弱さに突け込んだか…」
アナ「ああ~っと栗木、また何やら訳の分からない減らず口を叩いています! さあ、これに
どう応える、小林流・知念さんッ!」
知念さん「フッ……あくまで、真面目に戦おうという気はないらしいな」
吐き捨てる様にそう答えると、知念さんは栗木に向かって真っ直ぐに歩き始めた。
アナ「? おや、これは一体どうしたことだ~!? 知念さん、栗木の方へ悠々と歩を進めます!
その足取りはまるで散歩にでも出かけるかの様にさりげなく……」
知念さんの奇行に、アナウンサーはじめ観客達も戸惑いを隠せなかった。
アナ「解説の本部さん、これは一体どういう作戦なんでしょう? 私には、知念さんはまるで
無防備、全くの自殺行為にしか見えませんが……」
本部「御殿手だ」
と、本部はあっさり言ってのけた。
アナ「え~? またまた、本当ですか~? ウドンデって、琉球王家の秘伝の武術のアレでしょ?
こう言っちゃナンですけど、まさかあの知念さんが…」
皮肉っぽい笑みを浮かべるアナウンサー。まあ、当然の反応である。
一方、リング上では迫ってくる知念さんに対し、栗木が動きを見せた。
スッ…
アナ「おや、栗木、両腕を体の前に…あ、あの構えはッ!」
本部「前羽の構えだ」
栗木は知念さんを真っ直ぐ見据え、嬉しそうにニヤリと口元を歪めた。
しかし知念さんの方は、そんな栗木の態度にも、微塵も動じた様子はない。
ただ、落ち着いた足取りで、一歩一歩、栗木との距離を詰めて行く。
アナ「ああ~ッ!! こ、これは、たいへんなことが起ころうとしているのでは……!?」
ここに至って、ようやくアナウンサーも事の重大さに気付いたらしく、先ほどまでの楽観視した
表情が消えていた。
アナ「降りかかる全ての攻撃を裁くという、琉球王家秘技中の秘技、御殿手ッ!! バーサス!
空手の防御の構えの頂点とも言うべき、前羽の構えッ!! これはもはや、最強の盾と最強の盾
同士の激突と呼んでいいでしょうッ! 正真正銘の、究極の護身対決だ~ッ!!!」
オオオオオオ
観客達の間に、どよめきと興奮が広がった。
突き進む知念さん、待ち受ける栗木。
数秒後には、どちらかが、リングの上に倒れ伏しているだろう。
アナ「徐々に、徐々に距離が狭まっていきますッ! 制空権が触れ合う寸前だ~ッ!!」
(後編に続く)
スペシャル・マッチ!外伝(6)~バカヤロウ二人!!(後編) 作:MBO
<前回までのあらすじ>
秘技・御殿手を繰り出した知念さんに対し、前羽の構えで迎え撃つ栗木! 究極の護身対決の
軍配はどちらに上がるのか?
アナ「徐々に、徐々に距離が狭まっていきますッ! 制空権が触れ合う寸前だ~ッ!!」
絶叫するアナウンサー。
本部「わしに言えるのは、先に手を出した方が敗れるという、それだけじゃ」
本部が息を呑んで、苦しげに言った。
リング上では、着々と二人の間の距離が短くなっていく。
アナ「おおおおおッ、恐ろしい光景だ~ッ!!! お互い一撃必殺の間合いに入っています!!
手を出せば、確実に相手を倒せる距離だァ~~~ッ!!!」
観客達が、固唾を飲んで見守る。
ツ…と、本部の目の淵を、汗が伝った。
主役である、知念さんと栗木の表情からは、何も読み取ることが出来ないように思われた。
既に二人とも、明鏡止水の境地に達したのであろうか?
そして、張り詰めた緊張感漂う中、二人の体は無造作に、…そのままぶつかった。
ドン。
アナ「…え?」
一瞬、その場に居合わせた全員が、ポカーンと、あほの様に大きく口を開けた。
本部「やっちまった…」
アナ「な、なァ~んとォーッ!! 究極の護身対決を、そのまま普通にぶつかってしまった~!!」
観客達は、開いた口がふさがらなかった。
知念さんと栗木は、よくわかんねえやって感じの顔で、お互い見詰め合っていた。
そして、僅かな静寂の後、
観客「バカヤローッ!」「ふざけんじゃねー!!」
一斉に、客席から怒号が巻き起こった。
アナウンサー「あわわわ、皆さん、物は投げないで下さいッ!!」
しかし、アナウンサーの呼びかけも虚しく、激怒した観客達は手当たり次第にリングに物を
投げつけ始めた。ジュースの空缶から携帯電話、カバンに椅子まで、自分の物を投げるのは
惜しいんで、隣の客の物を奪って投げつけ始める者まで出る始末。
栗木「な、何だよォ~ッ! お前らが”先に手を出したら負ける”とか言うからだろがッ」
飛び道具から身を庇いながら開き直る栗木、しかしそんな言い分に客が納得するはずも無い。
観客「舐めんじゃねえ空手屋ァッ!!」
と、客の一人が怒りに身を任せて巨大な金だらいを投げつける。どこにあったんだ?
栗木「ヒイッ」
慌てて伏せる栗木、目標を外した金だらいは、
ゴンッ
と、知念さんの後頭部に命中した。
アナ「ああ~ッ、知念さんダウン、ダウ~ンッ!!!」
不意打ちを食らった知念さん、バッタリとその場に倒れ伏す。傷口からはドクドクと流血。
アナ「夥しい流血だ~ッ!!」
と、場内がトンでもない騒ぎになっている中、審判役の小坊主は、
小坊主「あああああ、今のタライは凶器攻撃になるのでは?」
などと、見当外れもいいとこな問題で頭を悩ませていた。
ふと気がつくと、いつの間にか、みっちゃんが目を覚ましていて、ジッとリング上を凝視している。
小坊主はワラにもすがる思いで、みっちゃんの方に駆けていった。
小坊主「あ、あの御老公、一体どうすれば…」
光成「止めい」
小坊主「えっ?」
光成「もう…もう充分じゃ……ッ」
みっちゃんは、本当に泣いていた。
→知念さん、流血! 次回に続く!!
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